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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

Going my way

特掃をやる度に思う。
「こんなんやりたがる人間は、誰もいないだろうなぁ」

「一回くらいはやってみたい」
「一度ぐらいは経験してみたい」
と言う人はいるかもしれないけど、まぁ、それも知らないから言えること。
実際には、「やる」ところまでいかず「見てるだけ」で精一杯だろう。
最後まで見ていられたら、それでも大健闘だ。

「特掃って、誰もができるってもんじゃないぞ!」
と、自慢したいわけじゃないし、
「俺は、それだけスゴイんだぞ!」
と、威張りたいわけでもない。
特掃ごとき、高い位置から言えることじゃないことは、とっくに承知している。

ただ単に、
「特掃ってそういうもんなんだよ」
と言いたいだけ。
実際、そんな仕事なんだよね。

私は、好きなことをやって生きている人を羨まく思う。

この社会には、不安定な生活(リスク)をものともせず、自分のやりたいことに果敢に挑戦していく人がいる。
もともとは好きなことを始めたのに、それが生活の糧を得る手段(仕事)になった途端に、労苦になる。
それでも、当初のマインドを捨てないで走り続ける人がいる。

その現場の故人を私は疑った。
「自然死と聞いてるけど、自殺じゃないか?」
と。
部屋にはたくさんの絵画の道具が置いてあった。
キャンバス・絵の具・筆・画集etc、床も壁もそれらで埋め尽くされていた。
芸術的センスがない私には、何もかもが意味不明。

「故人は、画家として食べていこうと思ってたのか?・・・」
私は、そんな志を持っている人間が嫌いではない。
畳に広がる腐乱痕はおぞましい限りだったが、部屋の様子からは、生活自体は質素で慎ましかったであろうことが伺えた。

「画家として成功しなくても、ハイリスクだと分かっていても、本人はこの道を進みたかったんだろうな」
私は、臭い粘土と化した故人の一部を削っているうちに妙な敬意を覚えてきて、絵の道具をゴミとして処分してしまうことが忍びなくなった。
そして、軽々しく自殺を疑ったことを申し訳なく思った。

志半ばでの死は気の毒かもしれないけど、好きなことをやって生きたことは本望だっただろう。
そんな人生、なかなか手に入れられるものではないから。

自分が食べていくため、家族を食べさせるため、嫌いな仕事でも我慢してやっている人は多いと思う。
そして、忍耐に疲れて、死人のようになっている人も少なくないように思う。
それでも、殺伐とした世の中を渡っていくには、自分を殺すことが求められる。

戦いに挑むより、戦いを避ける私。
やり甲斐より金銭をとる私。
自分の信念より他人の目を気にする私。
ネガティブなことばかり考えて、何事も悲観し、口を突いてでるのは愚痴ばかり。
そして、ささやかな空想を肴に酒を煽る

私が子供の頃、生まれて始めて「大人になってなりたい」と思ったのはプロ野球の選手。
将来の夢は、後にも先にもコレだけ。
その後は、いらぬ社会性と経済観念を身につけてしまい、純粋にやりたいことを見失ってしまった。
そんなことだから、ちょっとしたことがきっかけで虚無感を覚えたり、心の闇に支配されたりするのだ(原因はそれだけじゃないけど)。

短絡的な興味を持って飛び込んだ死体業界。
始めのうちは刺激的な世界であったけど、そのうちに死生観が麻痺。
こんな仕事をやり続けていると、悪い意味で人の死に慣れてくる。

 

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