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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

痛(耳編)

私には、思い出すだけでもゾゾーッとする耳の痛い思い出がある。
10年ほど前になるだろうか、右耳の鼓膜を破ってしまった時のことだ。

その後遺症で、今でも右耳はわずかに難聴である。
故に、自然と、電話は左耳で受ける癖がついている。

鼓膜を破った原因?
「スポーツ・格闘技」と言ったら少しは格好がつきそうだ。
「喧嘩」と言ったら少しは男らしいかもしれない。
「仕事」と言ったら少しは真面目に思われるだろうか。

しかし、実際の原因は「耳掃除」。
ひょんなことから、耳かき棒を深く突き刺してしまったのだ。
全く、マヌケと言うか、恥ずかしいと言うか・・・自分のバカさに自分で腹が立って仕方がなかった。

しかし、やってしまったその時の動揺はハンパじゃなかった。
グサッ!
と刺さった瞬間、頭に激痛と電気が走り、右耳が全く聴こえなくなったのだ。
私は、急いで棒を引き抜き、パンパンと耳を叩いた。
しかし、もう手遅れ、何も感じなくなっていた。

鼓膜は再生するものだと知らなかった私は、
「これで、もう一生ステレオ音声が聴けないんだな・・・」
と深く落ち込んだ。

しかし、病院で鼓膜が再生することを知って安堵。
しばらくの時を要したものの、幸い鼓膜は再生して、右耳も何とか聴覚を取り戻した。

そんな今は、聞きたいことも聞きたくないことも容赦なく耳に入ってくる。
耳触りのいいことだけ聞こえてくれば、楽なんだけどね。

若い男性から電話が入った。
自宅アパートにゴミを溜めてしまい、それが大家に見つかってしまって騒動になっているとのこと。
とにかく、
「急いで片付けなければならない!」
「何とかして欲しい!」
との要望だった。

ゴミ処分現場は、腐乱死体現場に比べると緊急性が低いことがほとんど。
私は焦ることなく、できるかぎり早く行けるよう、スケジュールを詰めた。

青空の広がる晴天の日、私は現場に出向いた。
依頼者の男性とは、現場アパートの前で待ち合わせ。
現場は二階、まだ築年数の浅い外観のきれいなアパート。
現れた男性は、これと言った特徴のないフツーの若者。
「まずは、部屋を見てからにしましょう」
私達は、現場の部屋に向かった。

気マズそうに玄関を開ける男性を尻目に、私は平然としていた。
それも、私なりの男性に対する心づかい。

「あー、こんな感じですかぁ」
目の前の光景は、ゴミ屋敷になる初期の段階だった。
どうも、男性はこのアパートに越してきた当初から、ゴミを溜め始めたらしかった。
その期間、約一年。
それを不審に思った隣の住人が大家に連絡。
男性の留守を見計らって、大家は部屋に入ったらしい。

「大家さんとは言え、他人に貸した家に勝手に入るなんてルール違反ですよねぇ」
(先にルール違反したのはアナタの方だけどね)
私は、口で男性をフォローしつつ、腹で批難した。

そんな中、誰かが階段を上がる足音が聞こえてきた。
男性が顔をこわばらせて送った視線の先には、怒り肩でズンズンと近寄ってくる中年女性・・・男性が恐れる大家やってきたのだった。
大家が、はなから戦闘モードであることは、部外者の私にも分かった。
私は飛び火を避けるために、男性から離れたところに退いた。

ガミガミ!ガミガミ!
男性は、耳が壊れそうなくらいの攻(口)撃を一方的に浴びせられていた。
大家はゴミの山を見て、更にエキサイト!
「こんな人(男性)放っといて、早く片付けちゃって下さい!」
と、離れた私に吠えた。

作業の日。
部屋が片付くことが決まって安心したのだろう、男性は前よりも明るかった。
必要なモノを捨ててしまってはいけないし、作業自体は素人でもできるようなことなので、男性も作業に加わった。
食べ物ゴミ・瓶・缶・雑誌・衣類etc、色んなモノが散乱。
その中には、たくさんのエロ本・AVも混ざっていた。
かなり凝った趣向のモノもあり、必要なモノなのか捨てるものなのかをいちいち尋くのも野暮なので、気を効かせて?捨てないでとっておいた。

そんな中、誰かが玄関が開ける音が聞こえてきた。
男性が顔をこわばらせて送った視線の先には、沈んだ肩でシトシトと入ってくる中年女性・・・男性が恐れる母親がやってきたのだった。
母親が、はなから半泣きモードであることは、部外者の私にも分かった。
私は、とばっちりを避けるため男性から離れたところに退いた。

ガミガミ!ガミガミ!
男性は耳が腫れそうなくらいの攻(口)撃を、避ける術なく浴びせられていた。
母親はエログッズの山を見て、更に意気消沈。
「こんな人(息子)放っといて、早く片付けちゃって下さい・・・」
と、離れた私に嘆いた。

わさわざ人に言われなくても、自分で分かっていることってある。
それをあえて人に言われると耳が痛い。
自己矛盾の渦にハマって、耳をふさぎたくなる。腹も立つ。

昔、口が一つ・耳が二つある理由を教えられたことがある。
「人は、自分が話すことの倍の量、人の話を聞かなければならない」
からだそうだ。
しかし、無口な私でも人の話を真摯に聞くことは簡単ではない。

人は、ついつい自己主張を先行させてしまいがちだけど、人の話をよく聞くことで自分が成長させられることってたくさんある。
だから、人の話は謙虚に聞いた方がいい。

それが、人生を豊かに実らせるコツのように思う。

 

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