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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

愛車とオフロード

車を手に入れるのって大変。
一般的に、一番大きな買物は家。
車はその次にくる。
購入時だけでなく、燃料・保険・車検・税金・メンテナンス諸々、維持費も安くは済まない。
しかし、車はそれ相応の働きをしてくれる重宝なものだ。

私が、初めて自分の車を買ったのは20代初旬。
50万円くらいの、国産中古セダンだった。
運転が下手クソで、始めは恐る恐る乗っていたけど、自分の車が持てたことに大きな喜びを感じていた。
ドライブの計画を考えるだけでも、かなり楽しめたものだ。

ポンコツ車にお構いなしで、片道1000kmもあるような所にも何度か出掛けた。
結局、その車は二年くらい乗って廃車。
最後は、値段がつけられるレベルになく、逆に処分料を払ったうえで自動車解体業者に引き取ってもらった。
業者のレッカーに引かれて行く愛車を、私は寂しく見送った。

若かりし頃の楽しい思い出が頻繁に頭に浮かんでくるのは、それだけ歳をとって弱ってきた証拠だろうか。

つい先日も、私は愛車を手放した。
車検・税金・今後のメンテナンスリスクを考えて、問題のないうちに思い切って処分することにしたのだ。

その車は軽自動車、プライベートでも仕事でも大活躍だった。
乗った期間は約5年、走行距離は裕に10万kmを超えていた。
軽自動車だけあって狭い路地でもキビキビ、燃費もGood!
唯一の難点は高速走行ぐらい。
それでも、安全運転をするには丁度よかったのかもしれない。

軽自動車で走行10万kmを超えているとほとんど価値はないらしく、下取り価格はかなり厳しいものだった。
日常のメンテナンスもきちんとやってきたし、マメに洗車もして大事に乗ってきた。
何より、事故や修理歴もなかった。
だから、まだもうひと頑張りはできそうな車だった。
なのに、タダ同然の値段になってしまって、残念無念。

この5年、一緒に走った道程は決して平坦ではなかった。
色んな気持ちで、色んなところに行って、色んなことをやってきた。
たくさんの汗をかき、たくさんの涙を流し、たくさんの唾を吐いてきた。
夜間の仕事が入ったときや出先で酒を飲んだときは、車内で寝泊りもした。
春夏秋冬、晴れの日も雨の日も雪の日も、私が元気な時も落ち込んだ時も、いつもこの車に乗っていた。
思い出せば懐かしい。

この車の中は、私にとってとても落ち着ける空間でもあった。
騒がしい世間の中にあっても、自分一人の車内は平穏だった。
そんな私に付き合ってくれて、無事故・無故障で働いてくれた車。

だから、この車には格別の愛着があった。
別れの日、長い間の苦楽をともにしてきた相棒と別れるような気持ちがして辛く寂しい思いがした。

その車と私との最後の仕事は特掃だった。
しかも、積んだものは人間の腐った肉片とゴミ。
別れ際ぐらいは、きれいな花でも積んでやればよかったんだけど、きれいなモノに縁がない私が積んだのは、やっぱり汚物だった。

汚物を積むときは、車が汚れないようにその梱包は厳重におこなう。
特に注意が必要なのは、臭い。
プライベートでも使う車から腐乱死体臭がしたら、たまらない!からね。

愛車と走ってきた道程のように、これからの私の人生も平坦ではなさそうだ。
多分、私の生きる道は、湾曲と起伏の激しい砂利道・デコボコ道。
崖っぷちの山道もありそうだ。
舗装道路の高速走行なんて、叶わぬ夢。
2WDでスマートに走ることはとてもできず、4WDで這いつくばらないと前には進めない。

この頃は、いい加減タイヤの溝もなくなってきて、グリップ力が弱くなってきた。
忍耐力が衰えて、すぐに諦める。
しかも、サスペンションもへたり、臨機応変に動ける機動性や柔軟な思考力も衰えてきた。
ギアチェンジさえうまくいかず、無意味に落ち込んだり陽気になったり。
無駄なカラ吹かしで空回りすることもある。

人は何を目的に生きるのだろうか。
何を大切にして生きなければならないのだろうか。
「金?」「名誉?」「快楽?」「人?」
毎度の苦悩だ。

それでも、私には、辿り着きたい目的地がある。
目指すべきゴールがある。
ありがたいことに、道標も方位磁石もある。
その道程は決して平坦ではないけど、方向だけは見失わずに生きたい。

人生の目的地はまだまだ遠い。
愛車はリタイヤしたけど、私はまだリタイヤを許されない。
そろそろガタがきそうな心と体をメンテナンスしながら、ダマしダマし走っていこう。

生き抜くべき人生のオフロードは、まだまだ続きそうだから。

 

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