Home特殊清掃「戦う男たち」2007年分夜の出来事(後編)

特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

夜の出来事(後編)

「なるほどぉ・・・お゛!?」
辺りを探すまでもなく、私の目には、黒い不気味な物体が飛び込んできた。

床板を上げた場所は、まさにドンピシャ!
〝ホールインワン〟は大袈裟にしても〝ニアピン〟には違いなかった。
「さすがぁ」
誰も褒めてくれる人いないんで、私は自分で自分を褒めた。
そして、次の策を練った。

悪臭の根源はやはり動物の死骸、それも依頼者の女性が強く嫌悪するネコだった。
腐乱したせいで原形をとどめていなかったけど、ネコであることはすぐに分かった。
しかし、ネコはネコでもその体勢が確認できず、やや大きくも見える。
「何だか様子がおかしいなぁ」
私は、警戒感が増してきた。

私は、懐中電灯と自分の目を汚物に近づけて凝視。
そして、すぐさま身を硬直させた。
「ひょっとして・・・二匹?」
なかなか見分けにくかったけど、そこには、間違いなく二匹の死骸があった。
二匹は、重なるように腐乱していたのだった。
「夫婦?兄弟?親子?友達?」
どちらにしろ、二匹が同時に死んでいる姿は妙にモノ悲しい光景だった。

私は、予想もしていなかった状態に戸惑いを覚えながらも、女性に何と報告しようか考えた。
「動物じゃなかったことにしようかなぁ・・・でもこの臭いは明らかに動物だしな・・・」
「ネコじゃなかったことにしようかなぁ・・・でも、女性は事実を知りたいだろうし・・・」
床下でネコが腐乱していたことを知ったら、女性は腰を抜かすかもしれない。
しかし、この家に暮らす女性にウソをついていいものかどうか迷った。

考えた結果、私は正攻法でいくことにした。
そして、別の部屋で待つ女性に床下の状態を正直に話した。
女性は、イヤな予感が的中してしまった時のように顔を歪めて、嫌悪感を露にした。
今にも泣き出しそうな女性を見てタイミングを失った私は、ネコが二匹いる事実を言いそびれてしまった。

「特掃をやれば、見た目もきれいになるし臭いもなくなります」
「消毒までやれば万全ですよ」
そう伝えて、ギリギリのところで女性の涙を止めた。

考える間もなく、女性は特掃を依頼してきた。
そして、揃えてきた装備で充分だったので、私はそのまま作業にとりかかった。
幸い、床穴と汚物の位置は近く、床下に潜らなくても作業はできた。
ウジ・ハエの飛散が少なかったことも作業の難易度を下げてくれた。

毎度のことながら、動物の死骸を回収する作業は気持ちのいいものではない。
腐乱して溶けかかっているモノはなおさら。
毛に絡みつくように群がる極小のウジは、まるでホラー映画でも見ているかのよう。
更に、その腐乱臭は人間のそれと似て非なるもの、非で似ているもの・・・どちらにしろ、臭い!ことに変わりなし。
触覚と視覚と嗅覚をタップリ刺激してくれる作業だ。

そして、一番の問題は死骸の体液。
コイツを始末しないことには、問題の根本が片付かない。
私はこれを除去するため、上半身と機材を床下に突っ込んで、ひたすら作業を進めた。

何時間かして作業が終わり、部屋の換気をしながら床板と畳を戻した。

「これで大丈夫!きれいになりましたよ」
私は、一応の安心を提供できた手応えがありながらも、対する女性には、まだ一抹の不安があるようにも思えた。

「しばらく、眠れない日が続きそうです・・・」
そう元気なく言う女性に、中途半端な仕事をしてしまったようで、こっちまで元気がなくなりそうだった。

「こんなことが起こるのは、○○さん(依頼者女性)宅だけじゃありませんよ」
「家の床下や軒下でネコが死んでることは、よくあることです」
「動物が最期の場所に選ぶ家なんですから、きっと居心地のいい家なんですよ(しかも、二匹も)」
少しでも元気だしてもらおうと、私はアノ手コノ手の話を繰り出した。

そして最後に、
「また何かあったら来ますから、遠慮なく連絡下さい・・・あ、できたら昼間に」
と、冗談混じりに挨拶をすると、女性は笑顔で応えてくれた。
それを見て、私は一安心。

不眠症に悩めるのも睡眠不足を愚痴れるのも、元気に生きていられるうちの特権か。
望まなくなっていつかは起きられない身体になり、そして、冷たい土に眠ることになる。

現場を離れた私は、夜に起こる幸運と不運とを秤にかけながら、大きなアクビをした。

 

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