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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

復活(前編)

桜の季節も終わり、暖かい季節がやってきた。
幸か不幸か、これからは特掃にとっても熱い季節。
その影響があるのかどうか、私の精神状態も復活してきた。

とにかく、これからの季節は驚くほど腐るのが早い!そして酷い!
「ついこの間まで元気にしてたのに」
というような人が、わずかの時間で悪臭をともなう変わり果てた姿になって発見される。

また、これからの季節は、ウジが復活してくる。
本blogにもなかなか登場しなかったように、寒い冬はウジ・ハエの発生は穏やか。
と言うか、「夏だったら大発生!」というような現場でも全く姿を見かけないこともある。
私にとっては、作業の手間が省けて大助かり。
しかし、こうして暖かい季節がやってくると、ウジは〝招かざる客〟としてやってくる。
もっとも、ウジにとっては私の方が〝招かざる客〟なんだろうけど。

お互い、何かの因縁で憎しみ合っているわけではない。
私とウジは、ただ生きるために戦わざるを得ない関係なのだ。

ある老朽家屋。
「すぐ来て!」
との要請に、私は前の作業を急いで終えて急行した。

玄関の前に立っただけで、中が非常にイケない状態になっていることが分かった。
依頼者である大家は、複数の人に段取りをつけて鍵を受け渡している時間も惜しいらしく、
「鍵を壊してもいいから急いで入ってくれ!」
とパニック。
お言葉に甘えて?私はドアを工具を使って強引に開錠した。

中の腐乱臭がどれだけ臭いものかは、ここでは省略。
急務だったこともあり、いちいち悪臭を吟味して愚痴っているヒマはなかった。

ひと部屋しかない和室に入ると、その中央には黒光りするほどに腐敗液・腐敗脂を吸った汚腐団があった。
それはまるで、皮製の布団のよう。

見慣れた光景なのに、
「何なんだよぉ、これは!」
と、私はとりあえず悲嘆。
そしてすぐさま、
「まずは、これを何とか始末しないとどうにもならないな」
と頭のシフトレバーを戦闘モードにチェンジ。

「今日中に何とかして下さい!」
と言う依頼者に、
「汚染物だけは何とかします」
と応える私。

依頼者と電話でやりとりした後、私は、急いで装備と道具を整えた。
そして、躊躇なく汚腐団に手をつけた。
できるだけ濡れた部分を触らないように、できるだけ身体に着かないように、できるだけコンパクトになるように格闘。

「きたな!」
集中して見ると、汚腐団の表面には、極小のウジが群生していた。
これからスクスクと育っていこうとしていた安住の地に、いきなり起こった大地を揺るがす巨大地震。
ウジは慌てただろう。
そして、逃げ惑ったに違いない。
しかし、逃避の試み虚しく彼等は私の術中にハマっるのであった。

ウジも一緒に畳み込んだ汚腐団を今度はビニール袋に梱包。
袋のサイズを間違えると後で難儀するので、ピッタリサイズのビニール袋を選んだ。
そして、腐敗液と腐乱臭が漏れないように何重にも梱包。
そうすると、正体不明の一つの塊が完成した。

今度は、それを部屋から運び出さなくてはならない。
きれいに?梱包してあるので物理的には問題ないはずなのに、これを抱きかかえるには少しの心の準備が必要。
一旦外に出て、マスクを外し深呼吸を2~3回。
あまり長く休むとリフレッシュを通り越して気持ちが萎えてしまうので、ほんの1~2分で私は部屋に戻った。

「オリャ!」
私は、勢いをつけて塊を抱きかかえて外に向かった。

液体人間と一体化した布団は、物理的にも精神的にも軽くはない。
私にとっては重い汚物。
しかし、
「これで故人もホッとするかな」
と思うと少しは軽くなる。
瞬間的ではあるけど、抱える汚物が人になる。

この汚腐団のように、腐乱死体が直接的に汚しているモノは、そのニオイもさることながら、見た目もかなりグロテスク。
近隣住民や通行人などの一般人からは一線を隔しておかなければならない。
だから、屋外では一層の気配りと手際のよさが必要。
さすがに、〝何事もなかったかのように〟とまではいかないけど、人目がある所ではできるかぎり淡々と清々しく?作業を進めることを心掛けている(一人よがりかも)。

汚腐団の撤去が済んだら、次は畳。
残念なことに、故人は布団を通り越して畳にまでイッてしまっていた。

つづく

 

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