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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

復活(後編)

人間が腐ると液状になることは承知の通り。
そして、残念なことに、この現場ではそれが布団を通り抜けて畳に到達。
布団の下の畳は茶黒く汚染され、わずかに凹みができていた。

故人の体格や腐敗環境にもよるけど、液体人間が布団やベッドマットを通り抜けて畳や床に到達しているケースは珍しいことではない。
更には、畳を通り抜けて床板にまで浸透していることもある。

私は、その他の汚染物を梱包しながら、畳の汚染面積を確認した。
布団回りの生活用品にも腐敗液・腐敗脂・腐敗粘土が付着してベトベト。
その中にウジもウヨウヨ。
そんなモノを一つ一つ手に取りながら、汚物袋に梱包していく作業は冷静にはやれるものではない。
私の場合、無意識に、言葉にならない濁点のついた声が口を突いて出る。

どう説明したらいいものか・・・見た目は、身の回りの小物に、中途半端に溶かしたチョコレートと溶かしバターを大量にブチ撒けたような感じ。
ニオイは・・・んー、例えようがない。
「とにかく、臭い!」
としか言いようがないんだよね。

「えーっと、汚染は二枚だな」
そうこうしていると、畳の汚染具合いが確認できるくらいにまで片付いた。
「ヨイッショ!」
私は、黒く汚れた二枚の畳を上げてその下の床板を見た。
「ヨシッ!床板は汚染なし」
不幸中の幸い、故人の元身体は畳で止まっていた。

一口に「畳」って言っても、サイズや重さは多様。
大きくて重いものになると、梱包にも苦労する。どうも、重いのは高級品らしい。
汚れてしまえば高級品も安物も関係ない。
当然、作業は安物の畳の方がやりやすい。
寝るなら、安物の畳の方がいいのかもしれない?
私は、持ち上げた畳をシートに包んだ。

直接汚染物をひと通り撤去し終わり、私は依頼者に電話を掛けた。
とりあえずの急場は凌いだことを伝えると、とても喜んでくれた。

その翌日。
前日ほどの濃さはなかったものの、まだ悪臭は残っていた。
依頼者(大家)と遺族には外で待っていてもらい、家財・生活用品の全撤去を行った。
貴重品や必要な物を分別しながら。

作業が終わると部屋はきれいに空っぽになった。
そして、きれいになった部屋に大家と遺族を入れて、作業結果を確認してもらった。

「あとは、消臭と消毒だけですね」
大家と遺族は安心したようにそう言った。
「イヤ、まだそれでは済まないと思います・・・」
そう応える私を、怪訝な表情で見る二人。
私は、言葉を続けた。

「この部屋のどこかに、肉眼で確認できないところにウジが隠れているかもしれません」
「4~5日・・・イヤ、気候によっては2~3日でハエが出てくる可能性が高いです」
「ウジは、少々の食料がなくても羽化しますから」
「数日、経過を観察してから消臭消毒しましょう」
そう言って、私はその日の作業を終えた。

その数日後。
私は、再び現場の部屋に出向いた。
大家にも立ち会ってもらい、中を確認した。

「え゛ーっ!?」と驚く大家。
「やっぱり!」と頷く私。
壁一面、ハエで真っ黒。
窓には、外からの光を遮断するくらいのハエがビッシリとたかっていた。
一回戦に敗退してどこかに潜んでいたウジは、ハエに姿を変えて復活していたのだ。
空っぽの部屋に、いきなり黒だかりのハエ。
その変容は、まるでマジックでも見ているかのように見事なものであった(感心してる場合じゃないけど)。

半端じゃないその数には、並の戦闘モードでは 太刀打ちできない。
私は、空気の流れを見ながら強力な殺虫剤を部屋にセットした。
これで大部分のハエを亡き者に。
そして、しばらく待ってから、今度はハンディー殺虫剤を持って再突入。
ヨレヨレになって飛び回る生き残りに、一匹ずつとどめを刺した。

二回戦を終えた後の部屋には、ハエの死骸がゴロゴロ。
ウジ・ハエから見たら、凄惨を極める光景だっただろう(人間から見ても同じか)。
掻き集めたハエの死骸は黒山ができるほどの量だった。

毎度のことながら、ウジ・ハエの生命力とたくましさには脱帽だ。
固体は違えど、何度叩いても復活してくる。
その根性は、見習ってもいいかもしれない。

彼等との戦いは、今年も頻発するだろう。
宿命の対決は、避けては通れなさそうだ。

私は、一旦凹むとなかなか復活できない軟弱な人間だけど、ウジ・ハエに負けないように頑張ろー。

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