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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

失礼!

平々凡々と生活する中で、知らず知らずのうちに人に失礼なことをしていることってないだろうか。
私は、たまにそういうことをやらかしてしまう。

特殊清掃撤去の依頼が入った。
私は、依頼者と決めた日、いつものように約束の時間より早く現場付近に到着した。

「確か、この辺のはずだよなぁ・・・」
地域によっては、同じ番地の家が複数あるところや、一軒だけ飛び地しているところ、何桁もある番地で分かりにくいところがある。
この現場は、同じ番地が複数ある地域だった。

目的のエリアに入った私は、路上に車を停め、歩いて目的の家を探すことにした。
キョロキョロと辺りを見渡しながら、グルグルと町内を歩きまわった。

「ん!この家だな・・・」
表札・番地はでていなかったものの、〝いかにも特掃現場〟といった佇まい。
「この家に間違いなさそうだな」
そう判断した私は、家の前で依頼者を待つことにした。

〝いかにも特掃現場〟風の住まいってどんな家を指すのかと言うと・・・
失礼な発言になってはいけないので、ここでは伏せておこう。

しばらくの時間が経過。
約束の時間が近づいてもも依頼者は現れず。
「まぁ、次の予定もないし、ゆっくり待つとするか」
長閑な晴天も心地よく、私は気長に依頼者を待つことにした。

やることもなく手持ち無沙汰になってきた私は、門扉のインターフォンに手を伸ばした。
そして、誰もでるはずのないインターフォンを押してみた。
〝ピンポ~ン〟
家の中から、インターフォンが鳴る音が聞こえてきた。

ちなみに、私は、現場宅のインターフォンを押すことが多い。
誰もいないと分かっているのに。
〝誰かいないか〟を念のために確認する意味と、〝誰か〟いた場合の、〝どっかに行ってて〟の合図の意味もある。

やはり、家の中からは何の応答もなかった。
が、私は何を思ったか、もう一度インターフォンを押してみた。

「ハイ・・・」
中から返事がきた。
ドキーッ!!
私の心臓は破裂しそうなくらいに動悸した。
そして、絶句。
なんと、中に人がいたのだ。

私が仰天したところ、間髪入れずに携帯が鳴った。
「今、現場にいるんですけど・・・」
依頼者からの電話だった。
どうも、私は現場の家を間違っていたみたいだった。

そうこうしていると家の中から人がでてきた。
私は、依頼者に、〝もう近くにいる〟旨を伝えて電話を切り、出てきた家人に応対。

「何の用ですか?」
「○○さん宅ではないですか?」
「違いますけど」
「アレ?おかしいなぁ」
「この辺は同番地の家が何軒もありますから、よく間違われるんですよ」
「そうですかぁ、失礼しました」
分かり切った問答をして、私は、そそくさと退散。

間違えた家の主は、私が何の家と間違ったかを知るはずもなかったけど、もし知ってしまったらスゴク嫌な気持ちがしただろう。
よりによって、腐乱死体現場に間違われたのだから。

私は、正規の現場に急行した。
依頼者は、玄関前の道路に立ち、私の姿を見つけて深々と頭を下げてきた。

「遅れてスイマセン、家を間違えちゃって」
「この辺の番地は紛らわしいですからね」

依頼者は、私が遅れて来たことなど気にも留めてないようだった。
約束の時間を守ることも礼儀の一つなので、かなり気マズかった私は依頼者のおおらかさに助けられた。

「どうぞ」
依頼者は玄関の鍵を開けてから、私の後ろに回った。
「一人で入ってきて」
依頼者の動きはそれを示唆していたので、
「中に入らないのですか?」
なんて野暮な質問はせず、私は黙ってマスクを装着した。

玄関から奥は昼間なのに薄暗く、まずは電灯をつけて明かりを確保。
それから、奥へと進んだ。
ニオイの確認のため、一時的にマスクを外してみたら、人間腐乱臭とは違った異臭が立ち込めていた。

「このニオイは・・・」
私は、誘われるように台所に向かった。
案の定、冷蔵庫扉の隙間から黒い液体が漏れだし、それが異臭を放っていた。

「うぁ~!こりゃヒドイなぁ!」
私は、思わず声を上げた。
冷蔵庫の扉を開けてみたい好奇心と、開けたくない防衛本能とを戦わせながらしばらく冷蔵庫と対峙。

「おっと、こんなことしてる場合じゃない。腐乱部屋、腐乱部屋。」
私は、大事なことを思い出したかのように、故人が亡くなっていた部屋に向かった。
部屋の汚染度はライト級で、特に驚く程でもなかった。

家の中を一通り見分し終えて、依頼者の待つ玄関前に戻った。

「そんなにヒドイですか?」
「え?」
「〝ヒドイ!〟って声が聞こえたものですから」
「あ、あれは冷蔵庫!冷蔵庫がヒドイ状態になっていただけです」
「冷蔵庫ですか・・・」
「食べ物が入ったままの状態で、誰かが電気ブレーカーを落としていったみたいなんです」
「・・・」
「まったく、片付ける方の身にもなってほしいですよ・・・ね!?」
「・・・」
依頼者は、何故か気マズそうな顔をして黙り込んだ。

作業の日。
現場には依頼者は来ず、その代理人(親戚)が来た。
そこで、電気ブレーカーを落としたのは依頼者本人であることが発覚。
「漏電で火事にでもなったら大変だから」
と、警察からアドバイスされたとのことだった。

「失礼しました」
そう呟きながら、冷蔵庫の撤去に汗を流すしかない私だった。

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