Home特殊清掃「戦う男たち」2007年分ロンリーチャッポリン ~インドア編~

特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

ロンリーチャッポリン ~インドア編~

梅雨が明け、本格的な猛暑が続くようになってきた。
ジッとしてても身体から汗と脂が滲みでてくるのに、身体を動かそうものなら汗は吹き出しすような勢いで流れでてくる。
私の仕事に限らず、この季節の肉体労働はキツいよね!

そんな一日を終えて入る風呂は格別。
汚仕事をして自宅に帰ると、まずは浴室に直行。
まずは風呂に入らないと、何をどうすることもできない。

夏場は、バスタブに湯を張ることは少なく、シャワーだけで済ませることが多い。
でも、暑くても、ゆっくりバスタブに浸かって寛ぎたいときがある。

でも、しばらく使わないでいると、バスタブはザラザラになっている。
そんなバスタブは湯を張る前に洗わなければならない。

「面倒臭いなぁ」
そう思うのだが、そんな時は自分が今までにやってきた汚腐呂掃除の苦労を思い出す。
すると、面倒臭さなんかどこかに消え失せ、普通のバスタブが洗えることを幸せにすら感じるのである。

風呂に入り、汗・脂・ホコリ、そして悪臭に塗れて汚れた身体を洗うとサッパリ、老朽ボディもそれなりにスベスベになる。
ついでに頭の中も洗って昼間のグロテスクも流してしまえば心身爽快。
あとは、口からアルコールを投入して雑菌だらけの脳と体内を消毒すれば、自分自身の特掃は完了。

ちなみに、私は、ボディーソープ・ヘアシャンプー・ヘアリンス等の類は使わない。
全て、ひとつの石鹸で済ませている。
俗に〝経皮毒〟と言われる余計な添加物が入っていない、古風な固形石鹸だ。
これは、お勧め。

私は、クサイ臭いに慣れ過ぎているせいか、人口的な〝いい匂い〟があまり好きではないのだ。
私にとっては、最近のシャンプー類は、〝いい匂い〟が強過ぎる。
香のオシャレが必要な歳でも仕事でもないし。
むしろ、それ以前に、ウ○コ男は回りに悪臭を放たないように気を配らなければならないんだよね。

身体を洗ったらバスタブに浸かる。
これがまたいい。
結構な長風呂になるけど、心臓がバクバクして額から新しい汗が流れてくるまで浸かってるのが好き。

できることなら、たまには広い浴槽を独占して脚を伸ばして入りたいもの。
温泉旅行なんて夢のまた夢だけど、銭湯や健康ランドくらいなら私でも行けるから、そうすればいいんだけど。
ただ、公衆浴場は他人と同じ湯舟、自分一人で独占なんてできるものではない。
やっぱ、孤独になれないところが難だね。

「随分と立派な家だなぁ」
現場の家は、高級感のある閑静な住宅街にあった。
立派な門扉にあるインターフォンを鳴らすと
「お待ちしてました、どうぞ」
と、家の女性が丁寧に応対してくれた。

門をくぐり玄関の方へ進むと、中年女性が出迎えてくれた。
玄関は、愛用の特掃靴で入るのが申し訳ないくらいにきれいで、家の中からもそれらしいニオイもしてこず。
私は、出されたスリッパに履き替えて、案内される方へ進んだ。

「ここなんです」
案内された先は浴室の前。
女性は、扉が閉まったままの浴室を指差した。

「バスタブに浸かったまま亡くなってまして・・・」
女性は、表情を曇らせた。
それは、故人の死そのものを悼むのではなく、この家からこんなかたちの死者をだしてしまったことに対する嫌悪感を露にしたような表情だった。

亡くなったのは、この家のお婆さん。
女性の姑だった。

前日の朝、いつもなら家族の誰よりも早く起きてくる姑が起きてこなかった。
最初は気にも留めてなかったのたが、朝食時になってもなかなか現れない。
さすがに気になり、部屋に呼びにいったが、そこに本人の姿はなし。
玄関を見ても、外出した形跡もない。
この時点で異変を感じた女性は、家の中に姑を探した。
そして、浴室の浴槽に沈んでいる姑を発見したのであった。

「心臓が止まるかと思いましたよ!」
変わり果てた姿の姑を発見したときは仰天!
女性は、故人を発見したときの模様を興奮気味に話してきた。

もともと故人は風呂好きで、マイペースでゆっくり入るスタイル。
だから、この家では一番最後に入るのが習慣になっていた。
また、同じ家に暮らしていても、故人は自室で一人で過ごすことがほとんど。
家族と顔を合わせるのは食事の時くらいで、日常生活での関わりも薄かった。
モノ音だけでお互いの存在を感じるような家族関係。

そんな家族関係は、故人の突然死を半日の間、風呂に沈めてしまった。
ポックリ逝ったのか苦しみながら息絶えたのか分からないけど、故人は長い時間を一人寂しく湯に浸かっていたことには違いなかった。
どちらにしろ、そんな家族を故人が望んでいたのかどうか、知る由もなかった。

浴室の前に立った私は、いつものように鼻をクンクン。
「わずかに臭いますねぇ・・・あとは私一人で大丈夫ですから、離れていて下さい」
「では、よろしくお願いします」
女性が居なくなるのを待ってから、私はマスクを着用。
そして、浴室の扉を開けた。

「〝臭いモノには蓋〟か・・・」
浴槽には蓋がしてあり、まずはそれを外すのが私の仕事だった。

「はぁ~・・・汚腐呂掃除か・・・」
とマスクの中でそうボヤきながら、ドキドキの蓋に手をかけた。

最近の風呂は便利なことに保温機能がついている。
この汚腐呂はそれが裏目にでた。
たった一晩浸かっていただけなのに、お湯(水)はコゲ茶色に変色。
濁りこそ少なかったものの、故人の皮膚がビニール袋のように水中を漂っていた。

〝一人でゆっくり〟がいいのは普通の風呂。
汚腐呂に限っては、一人でゆっくり入ってる場合じゃない。
それでも、一人寂しく黙々と片付ける私だった。

常々、〝人付き合いが苦手〟〝孤独が好き〟等と孤高を気取っている私だけど、社会やいずれかのコミュニティーに属している感心感があるからこそ言えるセリフだとも思っている。
本当の孤独は、私ごときではとても耐えられるものではないだろう。

やはり、人生は人に助けてもらいながら、支えてらいながら歩くもの。
「もし、この人がいなかったら・・・」
と、身の回りの人ひとり一人を見てみると、おのずと人間関係に謙虚さがでてくる。

一人の風呂をチャポチャポ楽しみながら、
〝みんながいるから一人がいい〟
ということに気づかされる私である。

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