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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

天井

「暑いっ!!」
余計に暑くなると分かっていても、ついつい吐いてしまうコノ言葉。
一体、この暑さは何なんだろうか!
30年前、子供の頃の夏ってこんなに暑くなかったように記憶しているけど、気のせいだろうか。

気温自体は例年通りなのだろうが、今年の暑さは身体にこたえている。
夏もまだ中盤なのに、クタクタ・ヘナヘナになっているのだ。

その原因を自己分析してみると、五つのことを思いつく。
①ひとつ歳を増して、体力が衰えている。
②休みがなくて、疲れがたまっている。
③水分補給ばかりで、ろくに食べてない。
④水回りの特掃が連発し、汚れまくっている。
⑤自殺現場が多くて、精神疲労が激しい。

言うまでもなく、この季節の特掃作業は一段と過酷。
エアコンもなく、風も通せず、おまけにハエと悪臭が充満するサウナ部屋での肉体作業。
ジッとしているだけでも身体から汗と脂が滲みでてくるのに、この状況なら尚更だ。
それでも、できるだけ「仕事があるだけでありがたい」と思うようにしている。
でないと、気分が滅入るし身体に力も入らなくなるから。

一日の楽しみと言えば、やはり晩酌。
本当は、冷えた生ビールをグイグイといきたいところなのだが、プリン体とやらが気になる年頃の私は、だいたいチューハイで通している。
しかし、外で飲むときは、ほぼビール。
店で出されるサワー類はマズくてイケないから。
ちなみに、知らない店に行って、凍ってないジョッキで生ビールをだされるとガッカリするので、私はほとんど新規開拓はしない。
ぬるいビールは喉越しも胃への到達感も半減、耐えて待った貴重な一杯目をだいなしにするからね。

好きなのは、某社国産の高級ビール(前にも書いたね)。
ただ、私にとっては贅沢品なんで、実際は二ヶ月に一度くらいしか飲まないんだけどね。
これを、凍ったジョッキに注いだものを出される喉と胃がハフハフ言いだす。
冷たいジョッキを手に持つと、もう誰にも止められない。
天井を見上げ目を閉じると、ビールは怒涛の勢いで流れ込んでくる・・・一杯目のこれがたまらない!

一日のうちで、元気がないのは朝。
前日の疲れと酒を残しながらその日に待つ労苦を考えると、気分はかなり憂鬱。
そんな時、寝床の天井を見つめながら想像することがある。

人生の終わりが近くなった自分が、病床から天井を見つめている姿。
もう元気に起き上がる力もなく、ただ死を待つだけの身。
天井をジッと見つめながら、生きてきた道程を一人静かに振り返ってみる。

苦しかったこと、辛かったこと、泣いたこと、嬉しかったこと、楽しかったこと、笑ったこと・・・
忘れたい過去もあれば、忘れたくない過去もある。

「あんなこともあった」
「こんなこともやった」等と懐かしみ、また、
「ああしとけばよかった」
「こうするべきだった」
「あんなことしなけりゃよかった」
「こんなことするべきじゃなかった」
等と後悔する。
それでも、全てを夢幻の想い出として受け入れて、心静かに微笑んでいたいと思う。

朝っぱらからそんなことを考えながら、
「動けるうちに動いとかなきゃもったいないな」
と、軋む身体にムチ打って起き上がる。

呼ばれて参上した現場は、都会のマンションの一室。
浴室での孤独死だった。

「うわ゛ぁ~、これかよぉ・・・」
早々と不戦敗を宣言したくなるくらいの汚腐呂掃除が私の仕事。
浴槽に水はなかったものの、液状になった元人間がタップリ。
そして、浴槽の側面には多量の毛髪と腐敗液。

しかし、この汚腐呂はそれだけでは済まなかった。
無数のウジが発生し、浴室内を占拠していたのだ。
特に、私は天井を見上げて絶句。
建材の模様かと見紛うばかりのウジが、天井一面にビッシリ。
よ~く見ると、一匹一匹が生きていて、ムニュムニュと微動している。
それは、暑さを忘れて鳥肌が立つくらいの光景だった。

「これだけの数が同時に襲ってきたら、相手がチビでもヤバそうだな・・・」
そう考えると、冷汗もの。

「オイオイオイ、いい加減にしろよ!オマエら!」
ウジ達に文句を言っても仕方がないのに、虚勢をもって威嚇する私だった(ウジと同レベル?)。

万有引力の法則に従って、上部から片付けていくのが汚腐呂掃除のセオリー。
私は、まず天井の換気扇と点検口を封鎖し、ウジ共の逃げ道を遮断。
それから、天井・壁を這い回る彼等を掃い落とし始めた。
異変に気づいたウジ達は右往左往と抵抗。
軟体のウジは、力を加えると餅のように形を変えてなかなかじぶとく、そう簡単に掃い落とせるものではなかった。

また、浴室の天井は低い。
だから、ウジ達と私の顔は至近距離。
うまくやってるつもりでも腕や肩・更には顔・頭にポトポトと落下。
ウジ達の体当り攻撃に、〝うわっ!〟〝あ゛ーっ!〟〝ひぇーっ!〟等と悲鳴をあげる騒がしい私だった。

そうして、ウジ&腐敗汚物との格闘はしばらく続いた。

「よしっ!事情を知らなければ余裕で入れる風呂になったな」
きれいになった浴室にちょっとした達成感を得、この現場における最大の難関をクリアした私は、ふと浴室の鏡を見た。
そこには、汗ダクで真っ赤な顔をした私がいた。

「限界みたいだな・・・ちょっくら一休みするか」
外に出て装備を解き、熱い風を涼しく感じながら、蒸された身体と煮詰まった心を冷却。
そして、オーバーヒート気味の脳もクールダウンさせた。

腐乱痕も、片付けてしまえば人は跡形もなく消える。
人は、死ぬと何も残らないのだろうか。
人は、生きていくプロセスの中で、知らず知らずのうちに何かを残していっているのではないだろうか。
人の生命に始まりと終わりがあるのは、自分には想像も理解もできない何か深遠な意味があるのでらないだろうか。
おかしなことを言ってるようだけど、私は、何となくそんな気がしている。

「今の今の今が通り過ぎていく中で、一体俺はどんな歩を進めていかなければならないんだろうか」
どこまでも遠い青天井に心を透かされながら、そんなことばかりに思いを巡らせる私だった。

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