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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2007年分

特殊清掃「戦う男たち」

大黒柱

〝大黒柱〟とは、日本民家の中央に立てられている太い柱のことだが、今では、家族を支える中心人物を表す言葉として用いられることの方が多いと思う。
〝一家の大黒柱〟と言うと一家の経済的な支柱、つまり、一般的にはその家の世帯主・夫・父親を指すのだろう。
ただ、現実には、女性が一家の大黒柱になっているケースや、一本の大黒柱ではなく何本かの柱で支えられている家も少なくないだろうが。

人は、老若男女を問わず、この世での限界を迎えることが定められている。
それは、一家の大黒柱でも同じこと。
家族のうちの誰が亡くなっても一家は揺らぐけど、中でも、大黒柱が急に亡くなってしまったら一家の人生・生活は急激な変化を強いられることになる。
そして、そんな現実がたくさんあり、そんな家族を目の当たりにすると、人生の無常と人の命のはかなさを痛切に感じるのである。

故人は50代の男性。
訪問した家は、郊外の閑静な住宅街に建っていた。
立派な一戸建で、見た目もきれいだった。
築年も浅そうで、家の中は新鮮な建材のニオイに包まれていた。
しかし、それに合わない線香の煙が、家の雰囲気を一気に暗くしていた。

故人は、バリバリのビジネスマンで、仕事と家庭を両立して充実した日々を送っていた。
普通に家族をもち普通の家で普通に暮らしていた。
家庭にも仕事にも大きな問題はなく、平凡ながら幸せに暮らしていたようだった。

ある日の夜。
故人は、いつものように家族揃って夕飯を食べた。
その後、子供達は自室に、妻は用事があって二階に上がった。
一人で一階リビングに残った故人は、テレビを観ながらビールを飲んでいた。
妻が二階に上がっていた時間は、ほんの20~30分。
その後、用事を済ませた妻が一階リビングに降りてみると、本人はソファーで横になっていた。
妻は、夫が疲れて寝てしまったものと思い、そのままにしておいた。

夜も更け、寝ている夫を起こして寝室に行かせようとしたところで、妻は異変を感じた。
夫の身体は力を失い、妻が揺らす手に一切抵抗しなかった。
そして、掛ける声にも全く反応せず。
妻は、夫が息をしていないことに気づいたのだった。

故人は40代の男性。
郊外に広大な農園をもつ専業農家。
家は、広い敷地の一角に建てられた大きな純和風建築で、高い屋根に立派な瓦、広い玄関からは長い縁側が続いていた。
広々とした庭はきれいに造園されていた。

この家は代々の農家。
広大な耕作地を所有して、地道に仕事を続けていたらしかった。
自営農業は、サラリーマンに比べて悠悠自適に暮らせるように思われがちだが実際は違う。
ビジネスマンとは質の違うリスクとストレスがある。

近代農業では、かなりの領域に人間の力を及ぼすことができるようになっているとは言え、それでもまだまだ天候や自然の影響は大きい。
自分の努力だけではどうにもできないことも多いく、結局のとけろ、豊作も凶作も陽と水に任せるしかない。
それでも、朝早くから夜遅くまで、季節によっては休む間もないくらいに作業に追われる。
朝早くから夜遅くまで満員電車に揺られるビジネスマンと共通したものがあるかもしれない。

そんな故人は、休みの日に妻子を連れて街に出掛けた。
仕事柄、家族で出掛けることは滅多になかったので、子供達も楽しみにしていたレジャーだった。

向かったのはサッカースタジアム。
サッカーが好きな子供達とスポーツ観戦に出掛けたのだった。

試合は盛り上がり、子供達が喜ぶ姿に故人も高揚。
そんな最中、突然、故人は泡を吹いて卒倒。
救急車で運ばれたものの、そのまま逝ってしまった。

ある日突然に大黒柱を失った家族の将来は、普通にはなかなか楽観視できない。
そしてまた、これはどこの家族にも起こる可能性があること。

命は金に代えられないけど、備えがあれば憂いも少なくできる。
現実には、お金が大黒柱のピンチヒッターを務めてくれる。

大きな問題は住居。
幸いなことに、上記の二家族には家は残ったが、一般的には家計経費に対する家賃は大きいため、残された妻子にとって住居の確保は大きな負担となる。
場合によっては、家族は路頭に迷うことになるかもしれない。

だから、家族があるなら住宅は賃貸より自己所有の方がいい。
昨今の住宅ローンは、ローン契約者が死亡したら残りのローンが免除される保険への加入が義務づけられているらしいので、何かのときには安心。
だから、保険付きの住宅ローンで住居を自己所有していれば、大黒柱が亡くなっても家は何とかキープできるという訳だ。

あとの問題は、日々の生活費。
一家の大黒柱となると、ほとんどの人が生命保険に入っていると思う。
支払金額は多ければ多いほどいいに決まっているのだが、その支払い方には工夫が必要だと思う。

金は人を変える。
一度に大金を手にさせると、その人の人生を狂わせる可能性が大きい。

回りの人間の態度も変わり、金目当てに妙な入れ知恵をしてくる者がでてくるかもしれない。
家族のことを想って入っていた生命保険が、結果的に家族のためにならないということだって有り得る。

そんな実例もいくつか見てきた。
だったら、どうすればいいのだろうか。

どちらにしろ、生命保険に加入しておく必要はあるのだが、更に、保険金の支払方法を工夫しておけば家族の人生を狂わすリスクを低減できる。
私的には、死亡保険金が一度に支払われるものではなく、何年にも渡って月々支払われる生活支援型の保険がいいと思う。
これなら、生活費の一部として堅実に消費できるし、家計の支えにもなる。
また、巨額のお金が残された人を惑わせることもなく、比較的、安全に家族を守ることができる。

保険加入の必要性は、独身者にも共通して言えること。
誰かに財産を残す必要はなくとも、自分が死んだ後の始末にかかる費用くらいは残しておきたいもの。
他人であろうが身内であろうが、残された誰かに自分の後始末をやってもらわなければならないのは間違いのないことだから。

ま、どちらにしろ、住宅を手に入れるにも保険に加入するにも、ある程度の元手と信用が要る。
それらを得るには、堅実に働くしかない。

生きているうちに愉快に楽しくやるのもいいかもしれないけど、後のことを考えておくとも大事。
「今が楽しけりゃ、それでいい!」
「自分が満足できれば、他人はどうでもいい!」
「自分が死んだ後のことなんか知ったこっちゃない!」
これも尊重すべき価値観なのかもしれないけど、この考え方は、死ぬまでは保たないのではないだろうか。
いずれ、それでは済まないときがくる・・・思考とは真逆の現実が襲ってくる。

今を生きていくことが精一杯で、死んだ後のことを考える余裕なんか持てない世の中だけど、その辺に人生を充実させるためのヒントがあるような気がする。

誰もが、今の今、突然に逝ってしまう可能性を秘めて生きているのだから。

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