Home特殊清掃「戦う男たち」2008年分

特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2008年分

特殊清掃「戦う男たち」

嬉しいとき・楽しいとき・悲しいとき・苦しいとき・・・見上げる空は、いつも私の味方。
どんなときも決して裏切らない。
今までに、何度も励まされ、癒され、支えられてきた。

冬の空は澄んでいる。
晴れた昼は遠くの景色まで見渡せる。
夜は無数の星が輝き、白い月が闇を照らす。

そんな星空は、自分が宇宙の塵に過ぎないことを教えてくれる。
月明かりは、自分の小ささを照らし出してくれる。

月が変わり、今日から2008年がスタートした。
世間はのんびりした祝賀ムードに包まれている。
普段の社会は殺伐とした空気に包まれているので、一年のうちでも正月の穏やかな雰囲気は貴重だ。
昨日に引き続いて、元旦の今日も現場仕事はなさそうで、私は完全に気を緩ませている。
いつ鳴るかわからない携帯電話は片時も手放せないけど、今日くらいはこのまま休みたいものだ。

今年もまた、私は、年賀状を一枚も書いてない。
正月飾も出していないし初詣に行くつもりもない。
多分、風邪なのだろうが、年末から体調も優れないため、せっかくの酒もすすまない・・・結構、寂しい?正月を迎えている。

休日の一日はアッという間に過ぎていく。
心身の疲労が蓄積しているため、身体が溶けるくらい寝ていたいと思うけど、なかなかそうもいかない。
しかし、本当に溶けてしまった人達のことを思い出すと、そんな怠け心は間違ったものであることに気づかされる。

そんな私の仕事納めは12月31日、仕事始めは1月2日。
そう、私の年末年始休暇は本日の一日のみ。
それも、終日ではないし、いつ呼び出しがかかるかわからない。。
そんな状況では出掛ける予定なんて立てられるはずもなく、仮に予定が立てられたとしても時間がなさ過ぎて大したことはできない。
慣れた生活であっても、かかるストレスはかかる。
明日からはまた仕事、好きでも嫌いでも仕事。
生きていくためには、わがままは言えない。

「また新しい一年が始まるのか・・・」
毎年のことながら、新年早々に疲労感・不安感を覚えている。
本来なら、新しい年に対しての夢や希望・期待を覚えるのが理想なのだが、現実はその逆。
気絶してしまいたいくらいの暗闇に怖じ惑う。

今年は、私にとってどんな年になるのだろう。
一年間、無事に過ごせるだろうか。
食べていけるだけの仕事はあるだろうか。
老いていく身体は、過酷な現場に耐えられるだろうか。
弱い精神は、独自のスタンスを維持できるだろうか。
そしてまた、この命とこの身体を保っていられるだろうか。

ポジティブな思考よりネガティブなイメージが優先する。
しかし、先のことを思い悩んだところで、どうすることもできない。
来たる未来を素直に受け入れるしかないのだ。

どちらにしろ、今年もあまり変わり映えのしない年になりそうだ。
特段の変化がないことについつい不満感や退屈感を持ってしまうけど、変わり映えのない毎日がどれほど貴重なものであるかを謙虚に受け止めておくことも大切だと思う。

新春早々、縁起でもないネタをぶつけて恐縮だが・・・今年もまた、たくさんの人が死ぬのだろうと思う。
命あるものの宿命は誰も逆らえない。
依頼があれば、心身が許すかぎりいくらでも片付けてみせるけど、せめて自殺くらいは減ってほしいものだ。

どんな仕事でも、気持ちと身体が共通してYESならマシなのだが、気持ちか身体どちらかがNOのときはツラいものがある。
特に、自殺現場ではそのバランスが崩れやすく、その分、パワーを要する。
恐いわけでも不気味なわけでもなく、霊や祟りが気になるわけでもない。
何とも言えない悲哀と同情・虚無と感慨が重くのしかかってくるのだ。

私が現れるところはHappyな雰囲気はない。
身を置くのは、暗く湿った社会の裏側ばかりだ。
その姿はまるで、社会の裏路地を歩く疫病神のよう?

そんな私の仕事には笑顔は似合わない。
依頼者が笑顔で登場することもなく、私も笑顔をふりまく必要もない。
そんな、笑顔が少ない世界に生きている私。
十何年もこの世界にいる私は、自分の顔からも笑顔を失っている。

基本的に、普段の私は無表情かシカメッ面。
私的には普通にしているつもりでも、不機嫌・怒っているように見えるらしい。
それが私の天性なの、それとも職業病なのか・・・私の顔には笑顔が少ないことは自覚している。

「私などとは二度と関わり合いにならないように・・・」
依頼者との別れの挨拶で、よく言うセリフ。
自分で吐いておきながら、切ないものがある。
しかし、そこには小さな笑顔が生まれることが多い。
過酷な境遇、怒涛の運命、凄惨な現場から微かに零れる笑顔だ。
そして、その笑顔には独特の輝きがある。

それを天空に例えると、晴天に光る太陽ではなく、夜空に輝く月。
弱くて小さくても、月には月にしか放てない光がある。
それは、熱すぎることのない優しい光、暗闇にしか輝かない光。

今年一年をコノ世で生き通せるのかどうかは、私にはわからない。
一体、どれだけの時間が残されているのか、どんな出来事が待ち受けているのか・・・先のことは誰にもわからない。
それは、神のみぞ知ること。
しかし、だからこそ、光を放って生きたい・光を放って活きたい・光を放って逝きたい。

私の仕事は、陽があたる仕事ではない。
ましてや、社会を照らす太陽になれるような仕事ではない。
しかし、私にだって月光くらいはあたる。
そして、この私が人の闇を照らす月にはなれるかもしれない・・・

昼間の月は誰も気づかないけど、夜(暗闇)の月は誰の目にも一目瞭然。
私は、顔に浮かべる笑顔は少なくても、人の心(闇)を照らす月になれるような生き方(仕事)をしたいと思う。

元旦の空を見上げ・・・2008謹賀新年。
私に、みんなに、ツキが回る年になるよう祈念する。

このページのTOPへ

お問い合わせ

WEBエッセイ「特殊清掃・戦う男たち」

特殊清掃 よくあるご質問

特殊清掃 取材・公演依頼

対応エリア

対応エリア
関東全域をメインに対応いたしております。
その他、全国も関連会社より対応いたします。