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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2008年分

特殊清掃「戦う男たち」

棚ぼた(前編)

私は、結構な甘党。
〝自分に甘い〟甘党でもあるけど、甘い食べ物を嗜好する甘党である。

スナック菓子類はあまり食べないけど、生菓子類はだいたい好き。
中でも和菓子より洋菓子の方を好むのだが、年をとる毎にその嗜好は変わってきているような気がする。
コッテリ系よりもアッサリ系を好むようになってきたのだ。

アッサリ系の甘味と言えば、やはり和菓子か。
馴染み深い和菓子は、大福・草餅・串団子・ぼた餅などの餅系。
そして、それに欠かせないのが餡。
私の好みは断然つぶ餡!
こし餡の、口の中にネットリとまとわりつく食感と喉通りの悪さが苦手なのだ。
これについては、意見が分かれるところだろうが、この好みは子供の頃から変わらないままである。

先日、知人の女性が私にワンラウンドのミルクレープを送ってくれた。
私が羨望していたのを知っていて、送ってくれたのだ。
本気で買うつもりなら買えなくもないものなのだが、わざわざ買うほどでもなく・・・しかし、食べてみたいことは食べてみたい・・・
そんなところに、思いがけない〝棚ぼた〟が落ちてきたのだ。

大きさは5号くらいだろうが、見ただけでヨダレが垂れそうなそれは冷凍された状態で届いた。
待望の逸品を前に、〝一度に全部解凍して一気に食べてしまおうか〟とも思ったが、食べ残してしまうともったいないし、楽しみは何度かに分けて味わった方が得だと考えた私は、いくつかに切り分けて少しずつ楽しむことにした。

この時季の気温なら、自然解凍がベストらしいのだが、何分かかるかわからない解凍時間を気の短いメタ坊が待てるはずもない。
腹と相談した結果、電子レンジで解凍することに決定。
私は、三角に切った一つを皿にのせて、電子レンジに突っ込んだ。

「さてさて、ここからどうすればいいのかな?」
何かを温めるときぐらいしか電子レンジを使わない私は、温度も時間もさっぱり検討がつかず。
どのボタンを押せばいいものやら考えあぐねた。

「温まったらマズいし、溶けなくてもマズいし・・・」
過剰な加熱は危険。
されど、溶かさないことにはどうしようもない。

「これか?」
私は、〝刺身・生解凍〟と印されたボタンを発見。
そこに人差指を近づけた。

「ん?こっちは何だ?」
ボタンを押す寸前、そのすぐそばに、ショートケーキのイラストのあるボタンがあるのが目に入った。

「おー!随分と気の利いた機能があるもんだな!感心!感心!」
〝冷凍ケーキ解凍用ボタン〟を発見した私は、何の疑問も持たずそのボタンをプッシュ。
庫内でオレンジの光に照らされるミルクレープを愛おしく眺めた。

「ん゛ー・・・なかなか時間がかかるもんだなぁ」
しばらく待っても、なかなか変化が表れず、液晶に残り時間も表示されず。

「ま、デリケートな解凍だから、レンジも慎重にやるようにプログラムされてるんだろう」
私は、レンジがチンと鳴るまで離れて待つことにした。

〝チ~ン〟
それから、しばらくの時間が経過し、解凍終了の音が聞こえたと同時に、私はレンジに駆け寄った。

「どれどれ・・・何!?」
レンジの扉を開けると、ナント!そこには・・・
・・・このまま話を続けると長くなりそうなので、この続きはまた次回にでも。

最近の、私の大きな〝棚ぼた〟は、液晶テレビ。
ある企業(店)のキャンペーンで当たったのだ。

その店は初めて行った店で、二度と行かないであろう店。
仕事の用でたまたま立ち寄っただけで、買い物もせずポイントを貯めていたわけでもなく。
そこで、店員に進められるままに、応募用紙に記入しただけ。
それが、忘れた頃に、景品となって届いたのだった。

荷物が届いたときは、「新手の押し売りか?」と、いつもの気の弱さがでてかなり警戒。
伝票を見ると、受取人は間違いなく私。
ただ、発送元には心当りがない。
何だか気持ち悪くて、すぐには箱を開封せずにしばらく放置しておいた。

「ひょっとして?」
少ししてから、私は過日の店のことを思い出し、思い切って箱を開けてみた。
すると、中には立派な液晶テレビ。
同封の挨拶状に目を通すと、〝懸賞当選〟を伝える内容の文字。
やはり、そうだった。

これには、私もビックリ!
自分の不運を嘆いてばかりの私が、その時だけは幸運の男となって気分も上々。
その〝棚ぼた〟は、私の物欲を巧妙に刺激し、滅多にないラッキーな気分を味わわせてくれた。

ただ、私はテレビはあまり観ないうえに〝テレビが欲しい〟なんて全く思ってなかったわけで、テレビが新しくなっても放送される番組が変わるわけでもない。
あの時の高揚はどこへやら、配線はつないだものの、今は結局ホコリを被って休眠している。

遺品処理の依頼が入った。
電話をしてきたのは中年の男性。
数少ない故人の親戚らしく、何やら、少し興奮気味。
故人の死を悲しんでいるような雰囲気はなく、軽快な口調で機嫌も上々。
〝フランク〟と言うか〝口が悪い〟と言うか、横柄で乱暴な口をきく男性だった。

「死んだのは私の伯母なんだけどね、その家を片付けなければならないわけよ」
「はい・・・」
「身内は、私くらいしかいなくてね」
「そうなんですか・・・・」
「厄介なことが舞い込んできちゃって、こっちはいい迷惑なんだけどね」
「・・・」
「とりあえず、家を見てもらわなきゃ始まらないでしょ?」
「そうですね」
「とりあえず、一度見に来てよ」
「承知しました」

出向いた現場は、活気溢れる商業地域に建つ古い一戸建。
建物は古いながらも建坪は広そうで、新築時はそれなりの豪邸だったことが伺えた。
また、庭を含めた敷地面積は広く、それが資産価値としては相当のものであることは、素人の私にもわかった。

「どうも!どうも!」
約束の時間に、依頼者の男性も現れた。
その意気揚々とした態度に若干の戸惑いを覚えながら、私は挨拶を返した。

「このボロ家なんだけどね・・・」
男性は、ニヤニヤと嬉しそうに、故人と家にまつわる経緯を話し始めた。

亡くなったのは男性の叔母にあたる高齢の女性。
夫とは数年前に死に別れて、それからは一人暮らし。
その夫は結構な資産家で、故人がその遺産を相続。
所有不動産は複数箇所に渡り、現預金や株も少なくなく、総資産は億単位のもの。
故人には子供がおらず、その遺産を相続するのは甥である男性ともう一人の親戚しかいないとのことだった。

既に巨額の遺産を手にしたつもりで気分が大きくなっていたのか、男性は、かなりの大口で尋ねもしないことまでベラベラ。
遺産に関わること等、言わなくてもいいことまで私に吐露。
男性が、遺産に目の色を変えているのは明白で、その突っ走る欲が私にもビンビン伝わってきた。
そんな男性は、〝正直者〟と言えば納まりがいいのだが、高揚し過ぎた気分を抑えきれずに喋ってしまっているようにも見えて、少々滑稽にも映った。

「ま、とにかく中を見てよ」
「はい・・・失礼します」
「勝手に見て回って構わないから」
「では、遠慮なく」
私は、男性に促されるままに靴を脱ぎ、玄関を上がった。

家の中の荷物は多目。
家財生活用品が所狭しと置いてあり、中には高そうな調度品や工芸品もあった。
その模様からは、この家にはそれなりの経済力があったことが伺えた。
しかし、あちらこちらが散らかり気味。
もともとは、ある程度の整理整頓・清掃ができていたように見受けられたが、故人の死後、誰かが乱雑に漁った形跡がありあり。
それが男性の仕業であることは、言わずと知れたことだった。

「この辺のものも全て廃棄ですか?」
「いや、価値のありそうなものは、骨董屋を呼んで見てもらうつもりなんだよね」
「そうですか」
「おたくが買う?」
「いえ、私は目利きができませんので・・・」
私は、男性との物品売買に、危険なニオイを感知。
余計なトラブルに巻き込まれたくはないので、品物の買い取りをやわらかく断った。

「あら?この汚れは・・・」
家中を見て回る中で覗いた浴室の床に、チョコレート色の汚れを発見。
小さな汚れではあったけど、どうも普通の汚れではなさそう。
私は、その見慣れた色合いに、〝ピン!〟とくるものがあった。

「風呂場に妙な汚れがありますね」
「・・・」
「自然にできた汚れじゃないと思うんですよ」
「あの・・・言ってなかったけど、伯母は風呂で死んでたんだよ・・・」
「・・・」
「でも、何時間かのうちに発見されたらしいよ」
「そうですか・・・」
「ま、その辺のところは、あまり気にしないでよ」
「大丈夫です・・・慣れでますから」
「そりゃ、よかった」
「浴室、ご覧になりました?」
「いやぁ・・・気持ち悪くて近づけないんだよね」
「・・・」

汚れ具合のニオイから、故人が早期に発見されたであろうことは私にも察しがついた。
そして、それを男性が隠していたことも気にならなかった。
実際、身内の孤独死を隠そうとする遺族も少なくなく、その心理も理解できるから。
そのことよりも、むしろ男性の露骨な利己主義が気持ちに引っかかった。
利己主義者の仲間として贔屓目に見ても、男性のそれには違和感を覚えたのだった。

「しかし、もう一人の相続人の方と相談しなくていいんですか?」
「あー、いいの!いいの!もう一人は年寄りだから」
「・・・」
「ついてはね、探してもらいたいものがあるんだよ」
「はぁ・・・」
「私も、できるかぎり探したんだけど、まるっきり見つからないんだよ」
「・・・」
「ないはずはないんだけどな」
「それは、何ですか?」
「預金通帳・有価証券・カード・印鑑・年金手帳・・・」
「その類のものは、持ってて普通のモノですから、どこかにあるでしょうね」
「あと・・・」
「え!?・・・ですか!?」

男性は、不敵な笑みにキナ臭い雰囲気を漂わせながら、ある探し物を要請してきた。

つづく

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