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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2008年分

特殊清掃「戦う男たち」

懐具合・心具合(自流編)

〝タバコ一箱1000円増税〟について、ちょっと追記。

根っからの嫌煙派の私は、〝タバコなんて、世の中からなくなったっていい〟とさえ思っている。
経済的なこと云々以外に、色々な害があるタバコ。
吸ガラ・灰・煙etc・・・
中でも煙害はたまらない。
漂う煙は防ぎようがなく、イヤでも鼻腔に入ってくる。
自業自得ならまだしも、他人の煙を吸わされて身体を壊しでもしたら、目も当てられない。
嫌煙者に喫煙者のタバコ嗜好が理解できないように、喫煙者は自分が嫌煙者の健康をどれだけ脅かしているか理解していないのだろう。

最近は、禁煙や分煙の浸透で、喫煙者の肩身はだんだんと狭くなってきているようだが、私的にはまだまだ不充分である。
だから、〝一箱1000円〟なんて呑気なこと言ってないで、2000円・3000円・・・いや、10000円つけたっていいくらいに思っている。
そうすると、自ずと喫煙者は減るだろうから。
そして、喫煙者が減れば色んな問題が解決の方向へ向かうはず・・・(新たな問題が発生しそうではあるけど・・・)

現実にそうなると仮定すると、色んなことが想定される。
例えば・・・
ビールに対する発泡酒が登場したように、疑似タバコが出回るようになる。
新たなビジネスが続々と生まれ、景気が刺激される。
隠れて葉が栽培され、ヤミで流通するようになる。
取り締まらなければならない警察の仕事が増えて、犯人検挙率が低下の一途をたどる。
一部の富裕層に限られた嗜好品となり、喫煙することがある種のステイタスになる。
未成年・若年層の喫煙率は低下するものの、そのフラストレーションが噴出して新たな社会問題が発生する・・・
等々・・・考えてみると、キリがないくらいに色んなことが頭に浮かぶ。

とにもかくにも、この問題、どうなることやら・・・
しかし、同じようなことを酒でやられては困る。
一升2000円余のにごり酒が10000円になったり、一缶100円余のチューハイが1000円になったりしたらたまらない。
それで、スッパリ断酒できればいいけど、我慢・忍耐が必要となると、それだけで膨大なストレスが蓄積されそう。
それによって健康を損なったりしたら、もともこもない。

私は、酒癖は悪くないと自認している。
しかし、そう思ってるのは自分だけで、意外と周りの人に不快感を与えているようなことがあるかもしれない。
嫌煙者に対する喫煙者のように。
あと、私が、タバコに抱いているのと同じ様に、〝酒なんて、世の中に必要ない〟と思っている人は少なくないだろう。
まぁ、〝酒はよくてタバコはダメ〟だなんて、私も結構なエゴイストだね。

呼び出された現場は、〝超〟をつけてもいいくらいの高級マンション。
管理会社の担当者とは、正面入口から少し離れたところで待ち合わせ。
その担当者は、私の姿を見つけるなり、一目散に駆け寄ってきた。

「このマンションの〓号室なんですけど・・・」
「はい・・・」
「亡くなってから、しばらく経ってまして・・・」
「そうですか・・・」
「私は見てませんけど、だいぶヒドいみたいで・・・」
「死因は?」
「え!?・・・特に何も聞いてませんけど・・・」
私は、担当者の頬が震えて目が泳いだのを見逃さず。
態度にこそださなかったものの、内心でピンとくるものがあった。

「何かの感染症ってことはないですか?」
「その辺は大丈夫みたいです」
「だったらいいんですけど・・・」
「何か問題ありますか?」
「いや・・・衛生管理は最初からキチンとしておかないといけませんから」
「そうです・・・ね・・・」
担当者の奥歯にモノが挟まっていることは明らか。
死因を把握していながらも、それを言えない事情があるようだった。
まぁ、隠しておきたい死因なんて、だいたい決まっている・・・
私は、感染症の危険性のみを確認して核心から遠ざかった。

「あと・・・近隣には内密に・・・」
「え!?気づかれてないんですか?」
「今のところ・・・隣の人にはちょっと怪しまれているかもしれませんけど・・・」
「警察が来て、一騒動にはなったでしょうに・・・」
「・・・」
「ま、その辺も注意して見てきますよ」
「よろしくお願いします」
私は、専用マスクと手袋を袋に隠し、オートロックをくぐり抜けた。
時折、他の住人とも遭遇したけど、誰も私のことなんか意に介してなさそうだった。

玄関前に立っても、特段のニオイは感じず。
あまり長い間うろついていると怪しいので、私は、そそくさと玄関を開けた。

「うわぁ・・・豪華な造りだなぁ・・・」
玄関床はピカピカの大理石調、廊下はただのフローリングではなくオシャレな木製タイル。
造り付けの下駄箱や収納庫も重厚感にあふれていた。

「しかも、この間取り・・・」
広々とした室内は圧巻。
高級ホテルのスイートルームを思わせるほどだった(泊まったことも入ったこともないけど)。

「ライト級だな・・・」汚染は、大きなベッドが座る寝室にあった。
ただ、床に赤茶色の腐敗液が薄っすらと広がっているのみ。
ウジ・ハエの姿はなく、ニオイも専用マスクがなくても我慢できるレベルだった。

「妙だな・・・」
腐敗液の傍らには、ウォークインクローゼット。
その扉が、まるで腐敗液を見下ろすかのように、不自然に傾いていた。

「自殺・・・か?」
頑丈な扉には、相当の加重がかけられた模様。
人間の体重でもかけない限り、扉はそのようにはならないと思われた。

「やっぱ、そうだろうなぁ・・・」
死因について言葉を濁した担当者の顔を思い出し、私は、想像を固めた。
しかし、〝慣れ〟とは怖いもので、私は、軽い溜め息をついただけで平静を保っていた。

「どうでした?」
「比較的、軽いです」
「〝そんなにヒドくない〟と言うことですか?」
「そうです・・・掃除だけだったら、これからすぐにでもできるレベルです」
「ちょっと、会社に相談してみます」
結局、その日は、現場調査だけで終わった。
早急な処理が求められてはいたけど、特掃作業着手には関係各人の確認が必要なため、管理会社の独断では決済しきれなかったのだ。

その翌日。
私は、特掃をやるために、再び現場マンションを訪問。
鍵を借りるために管理人室のインターフォンを鳴らした。
管理会社から話は通っており、年配の管理人が鍵を持ってすぐに出てきてくれた。

「事情は知ってるでしょ?」
「はい・・・」
「どこまで聞いてるの?」
「〝どこまで〟と言われましても・・・」
「いや・・・何と言うか・・・」
「人が亡くなってたんですよね?」
「そりゃそうなんだけど・・・」
管理人が、私に何を尋ね何を言いたいのか、大方の察しはついた。
それでも、私は、推測でモノを言うのを控えておいた。

「他には、何も聞かされてないの?」
「えぇ・・・まぁ・・・」
「そりゃ、ちょっとヒドいなぁ・・・」
「・・・」
管理人は、私のことを気の毒に思ったよう。
自分の顔を私の顔に近づけて、声のトーンを落とした。

「実はね・・・ここだけの話・・・これみたいなんだよ」(首に手をやりジェスチャー)
「そうなんですか!?」(少しは驚かないと悪いかと思い、オーバーリアクション)
「そうなんだよ!周りの住人にはこれなんだけどね」(辺りをキョロキョロしながら、口に人差し指)
「はぁ・・・」(返事に困惑)
人の口には戸は立てられないもの。
管理人による〝ここだけの話〟は地球の果てまで広がりそうな勢いだった。

「このマンションはね、〝金さえ払えば誰でも入れる〟ってところじゃないんだよ」
「へぇ~」
「身分がシッカリとした人じゃないとダメなんだよ」
「はぁ・・・」
「だから、自分で会社をやってる人か大手のお偉いさんばかりで、普通のサラリーマンなんてほとんどいないよ」
「へぇ~・・・」
「管理費もバカ高くてねぇ・・・だから、うちの会社(管理会社)も慌ててるわけよ」
「なるほど・・・」
管理人にだって管理会社の一員。
職務上のプレッシャーはあってしかるべき。
なのに、その態度はまるで他人事。
それどころか、尋きもしない話を延々と喋り続けた。

「(故人は)自分で会社をやってたみたいなんだけど、その会社がダメになっちゃったみたいなんだよね・・・」
「そうなんですか・・・」
「高級車を乗り回したりして、一時期は羽振りがよさそうにしてたんだけどねぇ」
「・・・」
「ここの住民は見栄っ張りが多いから、お金がなくなると肩身が狭くなって惨めなもんだよ」
「・・・」
自分の能力と努力と働きで、大金を稼ぐのはおおいに結構なこと。
羨ましく思うのは仕方がないけど、僻むようなことではない。
ただ、金持ちへの僻みか、日常の不満が積み重なっているのか、管理人は住人に対してストレスを抱えているようだった。

故人が自殺した真の動機は、私にはわからない。
だけど、経営していた会社が潰れたことが大きく影響したであろうことは想像に難くなかった。

もとは金だけの問題だったはずなのに、それが金だけの問題に思えなくなってくる。
それが、経済的問題の落とし穴・・・・・・いらぬプライドを刺激して果ては精神まで蝕んでいく・・・

時代の産物か、この仕事をしていると、多くの自殺者・自殺現場に遭遇する。
もちろん、一人一人の自殺動機はわからない。

ただ、表向きのデータでは、自殺原因のトップは〝経済的問題〟らしい。
裕福は問題にならなそうだから、問題となるのはやはり貧困・窮乏だろう。
それを裏付けるかのように、経済的に困窮していたであろうと思われる現場は実際に多い。

この社会を生きていくうえでは、金は欠かせない。
なくて困ることはあっても、あって困るものではないし、少ないより多いに越したことはない。
ただ、心が懐に支配されることによって起こる弊害には恐ろしいものがある。
金で買えない命が、金によって失わされることがあるから。

私の場合、裕福な家庭ではなかったけど、親の労苦のお陰で、幼少期を通じて極端な窮乏生活に陥ったことはない。
平均的な〝温室育ち〟なのだ。
そして、大人になってからも自分の労苦のお陰で?同様の生活を維持。
贅沢三昧とはいかないまでも、そこそこの生活は守られている。
国に納めるべきものは納め、好きな酒を飲めるくらいの暮らしはできているのだ。
だから、経済的に行き詰まり、精神的に追い詰められた人の気持ちを察するには限りがある。
そしてまた、その苦悩をリアルに感じることはできない。
しかし、事情は違えど、将来に失望し生きることに虚しさしか覚えなくなる心理は理解できるつもりでいる。
しかし、生きなければならない理由を見つけた私は、もう自死を選択することはないだろう。
ただ・・・その病原は消えておらず、その後遺症には今も苦しめられている。
〝心の闇〟などと表現して、本ブログにも何度が書いたことがあるように、瞬間的とは言え、今だ、消えたくなる気持ちに苛まれるときがあるのだ。

些細なことで頭がパンクし、何もかもが面倒になる。
些細なことをマイナス解釈して、精神疲労を起こす。
些細なことにつまずいて、生きることの意味を見失う。
そして、そこから立ち上がる・・・その繰り返しだ。

事の深刻さや大小に差はあれど、懐の具合が心の具合を左右することは、誰にだってあると思う。
しかし、心が懐に支配されるのだけは、何とか避けたいところ。

これは、あくまで自流。
たまにでいい、発想を転換してみる。
金で買えないもの(自分が欲しいもの・自分にとっていいもの)を一つ一つ思い起こしてみるのだ。
表面的には、金で誤魔化したり繕うことができるものであっても、真は買えないものを・・・
探してみると、これが案外とたくさんでてくる(書き込み歓迎)。
そして、その中から、自分が既に手に入れているもの・その気になれば手に入れることができるものを選んでみる。
これもまた、意外とたくさんあることに気づかされる。

そうすると、〝現実逃避〟〝妄想〟とは違う平安が滲みわたってきて、心の具合がよくなってくるのである。

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