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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2008年分

特殊清掃「戦う男たち」

開眼覚醒

陽が暮れるのが目に見えて早くなってきたと同時に、朝が明けるのも遅くなってきた。
ただでさえ重い朝のツラさが、これから日に日に増してくることを考えると、一層気が重くなる。

元来、私は、朝に弱くはなく、寝起きも悪くない。
しかし、重度?の不眠症。
夜中に何度も寝返りをうち、何度となく目を覚ます。
時には、眠りながら考え事をしてしまうような始末。
熟睡できていないのが、自分でもわかる。

そんな状態も今に始まったことではないので仕方ないものと諦めてはいるけど、過去には策を講じたこともある。
いつかのブログにも書いたと思うけど・・・
睡眠導入装置なる機械を使っていたこともあるし、心療内科にかかって眠剤を処方してもらったこともある。
また、寝酒やサプリメントを飲んだり、枕を変えたり靴下を履いたり、色々と試行錯誤・・・
しかし、どれもこれも、決定的な改善をもたらすことはなかった。
だから、今は〝これ〟といったことはやっておらず、ひたすら、早く就寝するように努めているだけ。

そんな私だから、同年代の男性に比べると就寝時刻は圧倒的に早い(と思う)。
夜中零時を超えるまで起きているのは、外で飲んでいるときか大晦日ぐらい・・・一年を通しても両手で数えられる程度。
何もなければ10時台には布団に入り、11時台には就寝する。

だからと言って、朝の起床は特段に早いというわけではない。
首都圏で働くビジネスマンと比べても平均的な時刻だと思う。
早く寝て普通に起きているわけで・・・結果的に、私の睡眠時間は長いということになる。
なのに、慢性的な睡眠不足感が抜けない・・・
とにかく眠りが浅くてどうしようもないのだ。

仕事柄、仕方のないことだから不満は覚えないけど、不眠症の一因として夜中の電話がある。
とりわけ、人の死にまつわる依頼だと、眠気も一気に吹き飛び目が冴える。
私の中に生きる特掃魂が、目を覚ますのだ。
しかし、その逆に、的外れな依頼だと一気に力が抜ける。
依頼者には申し訳ないが、ズッコケてしまうような相談を受ける時もある。

ある日の夜中、若い女性から電話。
「ゴキブリがでたんです!すぐに来て下さい!」
「ゴキブリ!?」
「そうなんです!大変なんです!」
「何匹くらいですか?」
「一匹!」
「一匹!?ご自分で駆除できませんか?」
「できるわけないじゃないですか!」
「・・・伺うにしても、到着は○時頃になると思いますけど・・・」
「え!?どうしてそんなにかかるんですか!?」
「〝どうして?〟って言われましても・・・」
「救急車みたいに来れないんですか!?」
「さすがにそれは・・・」
「じゃぁ、いいです!!(ガチャ!)」
女性は、泣いて怒って電話を切った。
スーパーマンじゃあるまいし、〝すぐに来て!〟の〝すぐ〟にも限界がある。
女性は、110番や119番にも電話しかねない勢いだったが、無理なものは無理だった。
しかし、女性の要望に応えらなかったことが自分の落ち度のように思えて、後味の悪さだけが残り・・・その後、醒めてしまった目が簡単に閉じるはずもなく、浅い眠りに朝まで付き合わされたのだった。

また、別の日の夜中、若い男性から電話。
「虫の駆除をお願いしたいんですけど」
「はぃ・・・何の虫ですか?」
「クモです」
「クモ!?」
「ええ」
「たくさんいるんですか?」
「いえ、一匹です」
「一匹!?・・・ご自分で駆除できませんか?」
「え!?できませんよー!」
「・・・」
「もの凄くデカいんですから」
「大きくても、襲ってきたりしないはずですよ・・・」
「・・・」
「費用もかかりますので、やはりご自分でやられた方がいいと思いますよ」
「いくらかかります?」
「移動交通費と作業費だけでも○○円くらいはかかりますね」
「え!?たったのクモ一匹で?」
「はい」
「だって、時給1000円にしたって、一時間もかからないでしょ?」
「いや・・・そういう計算じゃ・・・」
「じゃぁ、いいです(ガチャ!)」
男性は、不満げに電話を切った。
クモ一匹の駆除・・・作業内容や所要時間だけみると、そう思われても仕方がなかったのかもしれないが、さすがに1000円や2000円では請け負えなかった。
しかし、男性の要望には応えられなかったことが自分の落ち度のように思えて、後味の悪さだけが残り・・・その後、醒めてしまった目が簡単に閉じるはずもなく、浅い眠りに朝まで付き合わされたのだった。

そんな生活をしている私は、日中、急な睡魔に襲われることもしばしば。
特に、それは車に乗っているときに現れる。
ガムを噛んだり苦手なコーヒーを飲んだり、音痴な歌を歌ったり身体をツネったりして抵抗するも、次第に瞼が重くなり瞬きのスピードが落ちるてくる。
そして、瞬間的に気絶してハッ!と目を覚ます。

運転中の眠気って、自分と睡魔との戦いだけでは済まされない。
居眠運転で事故でも起こそうものなら、人に大きな迷惑をかけてしまう。
単なる物損でも充分に迷惑をかけるのに、人にケガをさせたり人の命を奪ったりするようなことになってはもう取り返しがつかない。
事故を起こしてからでは遅いのだ。
そうなると、どんな事情も言い訳も通らない。
予防的な休憩・仮眠も職務のうち・・・本当に大切なものは何か・・・過ちを犯す前に目を覚まし、物事の優先順位を考え直す必要がありそうだ。

ちなみに、日中頻繁に睡魔に襲われる私でも、現場での作業中に眠くなることはない。
仮に、特掃中に眠くなるようだったら、私もやっと一人前?
・・・いや、そんな無神経な人間になっちゃ、特掃隊員失格だ。

「閉じていたはずの目が開いてる!!」
私は、遺族の驚愕ぶりと遺体の状態を思い浮かべながら現場に向かった。

現場は、閑静な住宅街に建つ一戸建。
周りにも似たような家が整然と建ち並んでおり、番地表示と表札がなければすぐに他の家と間違いそうなくらいの家並だった。

亡くなったのは老年の男性。
通夜を当日に控え、家は慌ただしい雰囲気。
家族も、故人の死を悼む余裕もなさそうに、忙しく立ち動いていた。
そして、その慌ただしさに輪をかけたのが、遺体の変容だった。

故人は、その前日の早朝に死去。
穏やかな最期で、家族はただただその死を悼んだ。
遺体は、病院から自宅に運ばれ、仏壇のある床の間に安置。
故人は、眠るような安らかな顔をしていた。

自宅に戻った故人を、多くの親類縁者や近所の人達が弔問。
懐かしい顔に故人に対するそれぞれの想いが相まって、話には自然と花が咲いた。
そして、人々の話を聞いてか聞かずか、故人は表情を変えることもなく、布団に横たわっていた。

翌日。
その朝は、家族の悲鳴で明けた。
前夜までは安らかに眠っていた故人が、朝になると覚醒。
目を開けるなずのない故人が目を開けおり、家族は騒然。
家族の驚きは恐れに変わり、哀悼すべき故人は恐れの対象になった。

故人の脇に座って面布を取ると、確かに、故人は目を開けていた。
しかし、痛いほど遺体を見てきた私が驚くほどの状態ではなく、私は故人の顔に自分の顔を近づけてマジマジと観察した。

瞼は完全に開いているわけではなく、眼球が三分の二くらい見える程度。
その眼球は白く乾いて、視線も虚ろ。
どう見ても生きている人間の目とは違っていた。

瞼が開いた一番の原因は、眼球の陥没。
人の死後、その眼球が頭の奥に向かって大きく落ちることはそんなに珍しいことではない。
この故人もそうで、眼球が奥に落ちてその表面積と瞼の面積が合わなくなり、瞼と眼球が離れて隙間ができることによって目が開いたように見えていたのだった。

遺族は、霊的な何かを心配をしているようだった。
私はそんな遺族の不安をよそに、眼球露出の原因を説明。
そして、必要な処置を遺族に了承してもらい、故人の目に細工を施した。
そうして、故人は安らかな顔を、遺族は平安な悲哀を取り戻したのだった。

目が開けていられるのも、生きているうちの特権。
やがて、自分にも朝が来ない日が来ることを想えば、それまで見えてなかったものが見えてくる。
そして、その視力が、自分が生きるべき道を見据えてくれる。

そうして後、迎える最期・・・
できることなら、私は両目をシッカリ見開いて、天空を仰ぎながら逝きたい。
澄みきった青空を、透き通った星空を仰ぎながら・・・
そして、その時、何が見えるのか・・・人生の答を見極めたいと思う。

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