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特殊清掃を扱う専門会社「特殊清掃24時」:特殊清掃「戦う男たち」2009年分

特殊清掃「戦う男たち」

Choco-late

んー・・・いまいち調子がでない。
通年の不眠症に加えて、食欲不振(軽い拒食症?)と倦怠感・・・
つい先日も、久し振りの休暇がとれたので、気分転換にどこかに出掛けようかと思ったが、身体が「動きたくない!」とストライキ。
二度の食事と風呂以外のほとんどを、寝て過ごした。
ま、そのお陰で、随分と疲れがとれたような気がしてるんだけどね。

そんな調子だから、今年の冬は、大好物であるはずの〝にごり酒〟もほとんど飲んでいない。
いつもなら、常に一升の在庫を抱えた状態を春までキープするのだが、今年はそれがない。
何度か、買いに行こうかと思ったこともあったけど、面倒臭さが先に立って、結局買わずじまい。
飲みたくない訳ではないのだが、わざわざ買って来てまで飲みたいとは思わず・・・
秋頃(だっけ?)のブログに書いた、例の酒屋で一升買ったのが最後となったままでいるのだ。

それにしても、昔を思い返して比較してみると、ここのところ随分と酒に弱くなった。
ちょっとまとまった量を飲んだだけで、結構な酔いが回る。
だから、飲み始めを若い時と同じペースでいくと、ヤバいことになる。

〝ホロ酔い〟は、気持ちがいいものだが、〝酔い過ぎ〟はかえって不快。
視界が揺れ、呼吸は乱れ、腹はムカムカ。
その辺になってくると、ちょっと手遅れ。
麻痺した舌はアルコールを感じなくなり、アルコール漬にされた理性は自制力を失う。
酒を飲んでは酔い、酔っては酒を飲む・・・そして、泥酔し醜態を曝す。
そしてまた、体調を崩しては、虚しい悔恨に貴重な時間を費やすことになるのである。

・・・そう言えば、年一回の健康診断を、現場に追われて延期したままにしている。
病院嫌いの私は、身体の不調を気のせいにしがちだけど、ちょっと遅れてでも診てもらった方がいいかもね。

「一人暮らしをしていた母親が亡くなり、その後始末をしなければならない」
依頼者は、中年の女性。
依頼された仕事は、家財生活用品の片付けと部屋の消臭・消毒。
指示された現場は、公営の団地だった。

そこは、同じ造りの建物が何十棟も立ち並ぶ大規模団地。
私は、団地内を迷路のように這う道を、目的の棟に向かって車を走らせた。
建物は、〝1-2〟〝3-4〟といった具合に、壁面上部に大きくナンバリング。
それを一つ一つ順番に見ながら、車を徐行させた。
少しすると、目的の棟を発見。
私は、その建物を目指して車を進めた。
しかし、方向音痴(かなり重症)の私は、敷地内道路を右往左往。
なかなか建物前まで行き着くことができず、約束の時刻が迫る中で焦りがで始めた。
敷地内のあちこちに立てられている配置図を見ても、いまいちピンとこず。
通り掛かりの人に丁寧に教えてもらい、やっとのことで建物前へ。
約束の時刻にちょっと遅れて到着したのだった。

インターフォンを押すと、中からは電話で話した女性が応答。
女性は、私が約束の時間に遅れたことを気にも留めていないようで、そのことには触れず丁寧に出迎えてくれた。

私は、お決まりの挨拶を述べた後、中へ入れてもらい、現場調査を開始。
同時に、神経を鼻に集中させて、臭気を確認した。

「きれいに片付いてるなぁ・・・」
間取りは、広めの1DK。
置いてある家財は少なく、充分に整理整頓。
内装もきれいで、故人が居住していた期間が長くはなかったことが伺えた。

「これは、オシッコの臭いだなぁ・・・」
異臭の元は、明らかに尿。
その濃度に差はあれど、それは、高齢者宅に比較的多い臭気。
トイレ掃除・失禁後の掃除・オムツの処理が不充分な場合etc、ちょっとしたことで発生しやすい臭いだった。

「どこから臭ってるのかなぁ・・・」
部屋も置いてある物も、きれいそのもの。
私は、家財の量を計りながら、尿臭の元を探して、部屋のあちこちを見て回った。

「ん!?これか?・・・」
私は、部屋の畳に薄っすらとしたシミを発見。
顔を近づけてみると、モァ~ッとしたアンモニア臭。
それが失禁痕であることは、容易に想像できた。

「故人は、ここで亡くなってたのかな?・・・」
職業病の一つだろうか、何かあるとすぐに〝死〟に結びつけてしまう私。
この時も、直感的にそう思った。

「やっぱ、そうかも・・・」
ビニール袋に梱包された布団が、私の直感に信憑性をプラス。
私は、故人が一人布団で亡くなった様を想像して、気持ちを静止させた。
そして、それを先に伝えてこなかった女性の心情を思い計った。

自殺や孤独死の場合、亡くなった場所や亡くなり方が伏せられる場合が少なくない。
世間体や風評を気にしてのことかもしれないけど、単にそれだけでなく、自分が許容できないことを人に伝えることの矛盾と葛藤もあるだろう。
しかし、依頼者が何も言わなくても、現場の状況からそれを感じることが間々ある。
この時もまさにそうで、そのことを確認するセリフが喉まで出掛かっていていた。

片や、女性は、心に何かを引っかけているようで、故人の死に場所についてのことは全く口にせず。
かと言って、その素振りに不自然なところはなく、隠しておきたいわけでも・知られたくないわけでもなさそう。
私は、単に、女性が自分の口から説明するのに抵抗を感じているだけのことと解釈した。
そして、女性の心情を黙って察して気を効かせるのが自分の役目だと思い、それ以上勘ぐるのはやめにした。

女性宅は、そこから目と鼻の先。
以前は、故人は夫(女性の父親)とともに女性宅で同居生活を送っていた。
ところが、何かの事情で、故人夫婦と娘夫婦は住まいを分けることに。
それで、故人夫婦は、現場の公営団地に越したのだった。

それから、しばらくの時が経過。
寄る年波には勝てず、夫は故人を置いて先に他界。
一人暮らしとなった故人だったが、再び女性家族と同居する環境は整わず。
老いた身体で、そのまま一人暮らしをすることに。
一方、女性は、故人にできるだけ不自由な思いをさせないよう、毎日のように故人宅に通い、身の回りの世話をした。

「いつも、ほとんど同じ時間に来てたんですけどね・・・」
「たまたま、その日だけ、ちょっと遅くなったんです・・・」
女性は、寂しげに呟いた。
死の兆候に気がつかなかったこと、故人を一人で死なせてしまったこと、死に目に会えなかったことに対し、後悔と懺悔の思いに苛まれているようだった。

「こんなことが起こるかもしれないってことは、頭では、わかってたんですけどね・・・」
「でも、どこかで、他人事のように考えた自分がいましたね・・・」
高齢で身体も弱くなってた折、急に体調を崩して倒れる可能性があることを頭では理解していた女性。
しかし、なかなかそれを自分のこととして実感することができないでいた。

そんな女性の苦悩とは裏腹に、私は、故人の最期は穏やかで安らかなものだったのではないかと思った。
現場の状況が、私の例勘を働かせ、そう思わせたのだった。
そして、女性にとっては何の慰めにもならなかったかもしれないけど、私は、そのことを控え目に伝えた。
すると、私に気を使ってくれたからかどうか・・・女性は、笑みを浮かべて頷いてくれた。

〝人は、必ず死ぬ〟
そんなこと、誰だってわかっている。
更に、人間には、〝自覚〟という能力が与えられている。
なのに、人は、身近な人の死や自分の死を、真に自覚できない性質を持つ。
頭脳を持つ人間らしからぬそれは、先天的に植え込まれている死を忌み嫌う本能、生存本能の一片・・・つまり、生きるために必要な性質であるとも言える。
だだ、どうあれ、死を想い・死を考えることは意味深いこと。
だから、実際に、死に迫ってから自覚するのでは、ちょっと遅い。
それでも意味がない訳ではないけど、生きているのが当り前に思えている、常日頃から考えることに大きな意味がある。

私自身を含め、一人一人の人が、人間の死を・身近な人の死を・自分の死を、真正面で捉えるきっかけになればいい・・・
そして、それが、死のこちら側にある生を真摯に受け止めるための力になればいい・・・
このブログが伝えようとしていることの基は、そんなところにあるのだろう。

厳寒が続く中、遅咲きを知らない梅花に、そんな想いを重ねる私である。

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